【ゆうきまさみ×松浦だるまスペシャル対談】〔完全版〕その②
2014/10/14 00:00
【ゆうきまさみ×松浦だるまスペシャル対談】
〔完全版〕その②
〔完全版〕その②
背景の描き方とか覚えるヒマ全然なくて
——確かに編集としても力を貸せて良かったなぁ、と言いたいところなんですけど、実はこの1、2話目って、松浦さんがしばらく全然連絡をくれなくて、ポンッと出してきたんですよ。で、それがもう完成してるんです。
- ゆうき
- へえ~。そうなんですか! でも、絵をどうしようって考えませんでした? (受賞作と比べて)やっぱり処理の仕方が全然違うじゃないですか。
- 松浦
- ああ、作品によって合う絵柄ってあると思うので、『累』を描くにあたってかなり変えたんですね。意識的に。
- ゆうき
- 白黒くっきりしてるじゃないですか。『累』の方が。
- 松浦
- そうですね。パキッと描いてます。
- ゆうき
- 線だって凄く『累』になって、しっかりしたものになってますよ。
- 松浦
- ありがとうございます。
- ゆうき
- やっぱり受賞作と『累』の間っていうのは伊達じゃないですね。
- 松浦
- それは、やっぱりアシスタント経験かなぁと思いますね。あの後、何人かの先生の所でお世話になったので、そこでつけペンの使い方とか教わって、練習させていただけたのかなぁと。
- ゆうき
- ああ~。僕、そういう経験がほとんどなくてさぁ。
- 松浦
- アシスタント経験はないのでしょうか?
- ゆうき
- ちょっとしかね。会社が休みの日に新谷かおる先生(※4)の所に電話して「仕事はありますか?」って。
- 松浦
- ええ~。
- ゆうき
- で、「あるから来て」って言われると行くみたいな。
- 松浦
- 新谷かおる先生!? すっご…ええ?
- ゆうき
- で、とり・みきさん(※5)が忙しくて手が足りない時には、「じゃあ手伝いましょうか」って行ったり。実はその頃、下北沢でゴロゴロしてたんで(笑)。しかも新谷先生の所に行ったら、もう初日から「君はもう背景とかやらんでいいから、とにかくモブ描いてくれ」って。
- 松浦
- おおっ! いきなりモブですか? 凄い信頼されてるというか。
- ゆうき
- だから僕、背景の描き方とか覚えるヒマ全然なくて。「先生、飛行機描けるようになってた方がいいでしょうか」「そんなものは必要ない」って(笑)。
- 松浦
- 必要ないんだ(笑)。
- ゆうき
- そうなんですけど、僕はまだアマチュアですからねぇ、当時。まだ「OUT」に描く前ですから。'79年かなんか。
——確かにデビューしてしまえば、そういうのはアシスタントさんにお任せ出来るから、自分が覚えなくてもいいのかもしれませんね。
人の縁だけで仕事やってこれた
——新谷先生はいつ、ゆうき先生の絵を見る機会があったのですか?
- ゆうき
- えーとですねぇ、これもやっぱりまんが画廊で知り合った女の子がですね、新谷かおるファンクラブというのをやってまして、'79年に「新谷先生のとこにお年始に行くけど一緒に来ない?」って言うから「じゃあ行くー」って言って。
- 松浦
- じゃあそこから知り合って。
- ゆうき
- で、そのファンクラブやってた女の子っていうのが、川村万梨阿(※6)っていう声優なんですけど(笑)。
- 松浦
- おお~! まんが画廊濃いなぁ。ゆうき先生ご自身に才能は当時からあったんでしょうけど、それにしても人の縁というのは大事ですねぇ。
- ゆうき
- いや、僕はもう人の縁だけで仕事やってこれたみたいなもんですから、本当に。
- 松浦
- 私も凄い人の縁に助けられているっていうのを感じているので。ゆうき先生を初めとして、宇仁田先生(※7)もそうですし、人に助けられて描くものなんだなぁって、本当に思います。
- ゆうき
- いや、それは本当にそうですよ。
- 松浦
- 描く前はそういうイメージって漫画家には無かったです。
- ゆうき
- なんかあれでしょ。本人の実力だけでガシガシと(笑)。
- 松浦
- そうですそうです。芸術家みたいなイメージで。でも全然そんなことはなかったっていう。
- ゆうき
- 僕はこういう状況で、なんとなくフラフラ~っと漫画家になっちゃいましたから、なんていうか「実力で漫画家になったんだ」という意識は全然なかったですね。プロになって漫画を描くようになっても、これはなんかの間違いなんじゃないかって(笑)。
- 松浦
- じゃあ、もう大丈夫だなって実感されたのはどれくらいですか?
- ゆうき
- いやぁ~、大丈夫だなって思うことは漫画家にはないんですけどねぇ。人気無くなったらおしまいですしねぇ(笑)。それからこれは良く言うんですけど、コレが描きたい!って思うことがあんまり昔からなくて。だから毎回連載を始める時には、もーどうしたらいいのかわかんねぇ俺、何描いたら良いのか分かんねぇみたいな。で、叱咤激励されて何とか捻り出して。
- 松浦
- でも捻り出されるもののクオリティが、なんでこんな高いクオリティになるのか。凄いとこまで考えられて描かれてるんだろうなって思います。
- ゆうき
- でもねぇ、材料があったら考えるのは好きなんですよ。多分。
- 松浦
- 回り出せば。
- ゆうき
- 回り出せば、考えるのは好きみたいなんですよ。でもねぇ、内からこう湧きあがって「漫画描きたい~」っていうのはなくて。だからツイッターとかで「漫画大好きだ~」っていう人たちを見るとコンプレックスを覚えるんですよ(笑)。
- ゆうき
- この人たち、何があっても漫画描き続けるんだろうなぁって。俺、漫画家で食えなくなったら、もう別の道考えなきゃって思っちゃうもんなぁ、とか。
——(笑)。いますよね、そういう熱い人。
※4 新谷かおる
ゆうきまさみ氏が“先生”を付けて呼ぶ数少ない漫画家。少女漫画の感性と少年漫画の熱さを併せ持つ作風は、他に類を見ない独自性を持つ。代表作は『エリア88』『ふたり鷹』『クレオパトラD.C.』など多数。
※5 とり・みき
代表作に『クルクルくりん』『遠くへいきたい』などを持つ人気作家。ゆうき氏とも親交が深いことで知られる。
※6 川村万梨阿
ゆうきまさみ氏の作品『究極超人あ~る』に登場した西園寺まりいの声を担当するなど、ゆうき氏とは縁の深い声優。夫は『ファイブスター物語』の作者、永野護氏。
※7 宇仁田先生
青年誌から女性誌まで広い場で活躍する人気作家・宇仁田ゆみ氏のこと。代表作にアニメ化・映画化もされた『うさぎドロップ』などがある。第19回イブニング新人賞の審査員を務めた。松浦だるま氏はこの時にも優秀賞を受賞している。
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