【宇仁田ゆみ×松浦だるまスペシャル対談】〔完全版〕その③

2015/07/14 00:00

イブニングの単行本] [イブニング本誌情報] [インタビュー・対談

【宇仁田ゆみ×松浦だるまスペシャル対談】
〔完全版〕その③


10年後とか20年後にもちゃんと残るもの

宇仁田
松浦さんの漫画って、絵柄に懐かしさみたいなものがあるんですけど、言葉もすごく綺麗ですよね。古い漫画を読んでいたっていうのもすごく納得できるんだけど、今の若い人が使うような言葉じゃないから、10年後とか20年後にもちゃんと残るものだと思うんですよ。「なんじゃこの言葉、意味がわかんない」っていうのじゃなくて、ちょっと懐かしい感じもするけど、ちゃんと残せるもの。松浦さんは、そのセリフ回しと絵柄でひとつの世界を作っていると思う。今の若い人が喋っている言葉と多少違うとかそういうのはあまり気にせず、特に『累』では私はそのままでいってほしいです。……シブいっすよねえー。「忌ま忌ましい」とかいう言葉を漢字で書いてある、みたいな。「忌ま忌ましい」とか「まがまがしい」みたいな。それがすごい良いですよね。

『累』より

『累』より


松浦
もう、作業現場だと、アシスタントの人たちと「(かさねのような)19、20歳の娘がそんな言葉使わねえよー」って言って笑ってたりするんです(笑)。

宇仁田
何と言うか、『累』は“呪いのパワー”みたいなのが強くて、それが全開で出ていますよね。あの感じだからこそ、かさねちゃんの純粋さみたいなのも表せてるような気がしていて、それがすごい好きです。別に明るい方にパワーが全開することだけが良いんじゃなくて、とにかく振り切ってる方が魅力がある。

松浦
なんかそう言っていただけると勇気が出ます。これで良いのかなあ、良いのかなあって不安に思って描いてるんで。

宇仁田
ちょっと思い切ったな、っていう表現も多いですし、それを臆せず描いてる感じもすごい良いなあって思います。

松浦
文章や言葉選びって、漫画の読むテンポに関わったりとかしますし、慎重にやっていることではあるので、そのところを仰っていただけたのは、すごい嬉しいです。言葉まで見ていただいてるんだなあって。でもいまだに自分の作品で「うわぁ、こんなの描いちゃったよ……」みたいな恥ずかしさはあるんです。私が描いていると思われると、すごい恥ずかしさがこみ上げてくる。まだキャリアもないので、この感覚が今後抜けるかどうかもわからないんですよ。

宇仁田
私も自分の過去のやつは恥ずかしいですね。今も印刷されたやつは、あんまり見れない。でももう世に出ちゃったものはしょうがないし、絶対どれでも好きって言ってくれる人はいるんで、恥ずかしいけど否定はしないです。でもうっかりしたら先月のやつが恥ずかしいので、雑誌が届いたら順番に読んでいって自分のところが近づいたと思ったら、ぐって飛ばして安心して次のやつを読むみたいな感じになってますね(笑)。

松浦
私も雑誌が届いたら確認したいと一応思うんですよ。でも、バリバリっと封筒を開けて、「累、累……」と思って1ページ目を見て、「あっだめだ、心が壊れる……」となって閉じてしまうんです、恥ずかしくて。あ、でも深夜だと見れます、おかしくなってるから。

宇仁田
最近は、ふざけた作品もちょこちょこ描いてるんで、そういうのは別にそんなに照れくさくもなく、「あ、ここの絵がまずかったな」くらいの感じなんです。けど恋愛ものみたいなのを描くと、なかなか自分で読むのは大変ですよね。

松浦
たとえば、友達と会話している時ってそういうシリアスなとことか滅多に出さないじゃないですか。ふざけた会話とか世間話とかするけども、かさねみたいに「忌ま忌ましい」とか「母のようにならなければ」とかそういうことは言わない(笑)。でも、自分のシリアスな部分って、普段出さないけれども、実は出したい部分だと思うんですよ、誰でも。漫画の内容が私にとってはそれで。私はもともと人としての劣等感っていうのが人並みかそれ以上ありまして、シリアスなものというか、真面目なことを話すのにすごく照れがあるんです。普段、情けない所ばかり人に見られているのに、そんな奴がシリアスなことを言うと、説得力もないし、私がこんなこと言っていいのかな、みたいな気持ちがある。だから、話し言葉や書き言葉では伝えにくいことを漫画で表現しているのかな、と最近ちょっと思っているんです。

宇仁田
なるほど……。

松浦
逆にツイッターだと私、割とふざけてるというか、馬鹿みたいなことしか言ってないんですけど、それはシリアスなものを描いてるから、その反動かもしれません。

——そういうバランスを取るって意味でも、ツイッターは今の漫画家さんの必須のアイテムになりつつあるんですかね。

宇仁田
私ブログを書く時間がだんだんなくなってきて、更新頻度がツイッターの方が多くなってきているんです。あれはつるっと書けるんで、ほとんど日記がわりみたいになっていて……。たまに本当にがっつりと日記になっちゃうこともあるんで、なんだか申し訳ないなと思って、つぶやく時はすごい朝方なんです。一応生きてますよ、くらいの感じで。

松浦
そうそう、宇仁田先生は朝方なんです、ツイッター。

宇仁田
朝あんまり人もいないから。

松浦
なんかすごい数のリツイートとかされると怖くならないですか?

宇仁田
あ、私そんなにね、されないから大丈夫なの(笑)。

松浦
それは朝方効果ですね……。

宇仁田
だから、猫くらいかな? すごいリツイートされるのは。私の絵とかは全然。猫の方が多いっすよ。

松浦
猫は可愛いですからねー。




まだ削っても足してもいないような状態のものを考える作業が一番楽しい

——実際の制作について具体的にお伺いしていこうと思うのですが、まずお2人は作画とネームだったら、どちらが好きとかというのはあるんですか?

宇仁田
私は正直、作画の方が好きです。ネームは苦しいし、時間が読めないので。何時間やったから何枚、何ページできるという計算ができないところが怖いですね。浮かばない時は、本当、浮かばないので。絵を描く時は経験から計算ができるけど……。でもネームやってる時に「あ、これは」って、カチッとはまる時があって……その気持ち良さはネームの方が強いです。

松浦
私は強いて言うならたぶん作画なんですけど、もしどっちでもないことを言っていいのであれば、一番好きな行程ってプロットなんです。アイデア出したりとか、ネームの状態にする前の、ほんと下地の、まだ削っても足してもいないような状態のものを考える作業が一番楽しい。作画はすごく緊張するんですよ、いまだに。

宇仁田
作画って緊張するよね。紙に描いてる?

松浦
はい。宇仁田先生もですか?

宇仁田
私はもう紙に描いてない。だから、緊張感がだいぶ無くなってよかった。紙は本当に緊張する。怖い。なんかいっぱい直してたら紙ボロボロなっちゃうし。

松浦
そうなんですよね。原稿用紙がボロになるくらい直す時もあるんですけど、それでも形がとれてるかどうかって、いまだに怖くなるんです。どっかでプライドがあるんでしょうね。下手なもの出したくない、みたいな。でもやっぱり描けないもの、描くのが苦手なものはあるので、下描きも二重にしてて、時間がかかるんです。

宇仁田
二重?

松浦
みなさんがどう描かれてるのかよくわかんないんですけど、私は鉛筆のHでアタリつけて、そのあとシャーペンで詰めて、それからGペンで……みたいなことをやっているんです。漫画家さんの中にはアタリだけで描きだす方とかもいるけど……。

宇仁田
ああ、すごいざくっとしたやつでね。

松浦
はい。あれ一番早いだろうなと思うんですけど、不安だから線決めないと……。

宇仁田
ああ、私も絶対無理……。

——宇仁田先生はどの段階からデジタルに完全移行されたんですか?

宇仁田
今みたいにネームもペン入れも完全デジタルになったのは1、2年前だったような気がするんですけど、線画を取り込むデジタルにしたのは、たぶん2002年とかそんなくらいかな。

松浦
もう10年以上……。

宇仁田
ずっと、ペン入れはまだ紙でいいやって気持ちだったんです。でも太田垣康男さんの『サンダーボルト(※7)』を見て、「あ、こんな風に描けるのか」ってなったんです。絵が全然違うクセに(笑)。命知らずなんだけど、「描けるぞ!」と思って。それで本気で線画すらデジタルに移行しました。太田垣さんのデジタルで描く線画は、すごく力強い線だったんですよ。それまでによく目にしたデジタルの線は、割と補正されていたり綺麗すぎて、自分の絵とはちょっと合わないかなという印象でした。

松浦
あと誰が描いても似てしまいがちでしたしね。

宇仁田
そうそう! でも太田垣さんの絵は、その感じが本当に紙に描いたみたいにまったくなくて。筆ペンとまではいかないけど、すごく力強い線で描かれてて「はっ、私もやろう」と思ったんです。

——デジタルに完全移行されて、何が良かったと思われます?

宇仁田
何よりメールでその日のうちにつるっと送れるっていうのは、すごく強みですね。特にうちは地方だから。紙だとなんかあった場合、もう1回送り返してもらって、っていうのはすごい大変だったので。気楽って言っちゃうとダメなんだけど、万が一の時には、すごい良いなあって。あと、家のことになっちゃうんですけど、今もう小学生になってる2人目の子供が産まれたりで、だんだん仕事する時間が減ってしまった時に、デジタルだからこそ、それまでと同じくらいの枚数描けて助かっているというのはありますね。そんなに働いてないんですよ、私(笑)。5時になるともう電話に出ないっていう……ひどいですよね。でも子どもたちにどんどんご飯作って「早くお風呂に入れー」って言って寝かせないといけないので……ま、ついでに私も寝ちゃうんだけど。そういう感じでいこうと思うと、デジタルでの作業は助かってますね。

松浦
お子さんが赤ちゃんの時の頃って、お休みはとられてましたか?

宇仁田
私は完全なお休みはね、あんまりとってなくって。1人目の時は……ちょっとは休んだのかなあ。2人目の時は多少、描きためもして、4コマ誌のショートの方は1回休んだくらいで、「フィール・ヤング」は何回か隔月の連載に変えてもらって、それであんまり休んでる感を出さないようにしてたかな。

松浦
大変ですよね……。

宇仁田
それはでもデジタルになってたから、そん時はできた気がする。でもあんまり私は良い例ではない。休めるなら休んだ方が良いよ。

松浦
私はまだ結婚もしてないですけど、ゆくゆくはちゃんとそういうことなっても続けられるのかなっていう不安が、連載する前に考えてた以上に大きくて。ただ何も始まってないのであれですけど……。

宇仁田
でも考えておくのはすごく良いと思う。

松浦
あまり休みたくないなあってやっぱり思うので……間隔が開いちゃって、しかも『累』だけだと忘れられちゃうな、と。それで他の作家さんどうされてるのかなあって気になっていたんです。

宇仁田
名前忘れられたくないのってすごくわかる。ちびちびでも良いから名前を出していけると一番良いな、って私も思ってた。1人目の時、私はまだ何者でもなかったので。本当に新人の時に出産してるんですよ。だから早く描きたいっていう気持ちがありましたね。描きたいって言っても読み切りが3ヵ月に1回くらいで載ってただけなんで、1人目の時はあんまり変わんないかな、っていう感じだったけど(笑)。2人目はそれなりに自分で策略というか作戦立てて、その前から仕事をセーブしつつ、ちゃんとやってますよーってアピールしてた。しかもうちは背景を担当してもらってる夫と2人で描いているので、そういう意味でも良かったですね。仕事をガッとやる時に、入れ替わりながら子育てを交代で出来るので。

松浦
ありがとうございます。すごい参考になりました。


※7 サンダーボルト
太田垣康夫作の漫画『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のこと。「ビッグコミックスペリオール」にて2012年より連載中。手描きしたものと遜色のないデジタル技法を、作画に駆使していることでも話題となった。


【宇仁田ゆみ×松浦だるまスペシャル対談〔完全版〕】その④
NEXT「雑誌で輝ける作品はとてもカッコ良い」


  • 累 —かさね— (6)

    イブニング

    累 —かさね— (6)

    松浦だるま

    発売日:2015/07/23
    定価:本体571円(税別)

イブニング

イブニング

イブニング2018年7号
2019年03月12日発売
定価:本体361円(税別)
発売中

[詳しくはこちら]
[単行本の情報]
[作品の情報]

アクセスランキング

  • 第1位

    イブニング

    ふたりソロキャンプ

    出端祐大

    Webで読む

  • 第2位

    イブニング

    女の子のためのストリップ劇場入門

    菜央こりん

    Webで読む

  • 第3位

    イブニング

    RaW HERO(ロウヒーロー)

    平本アキラ

    Webで読む

  • 第4位

    イブニング

    妻に恋する66の方法

    福満しげゆき

    Webで読む

  • 第5位

    イブニング

    今/渦子 往く琥珀色のはて

    松浦だるま

    Webで読む

  • 林明輝『ラーメン食いてぇ!』

イブニング

イブニング

イブニング2018年7号
2019年03月12日発売
定価:本体361円(税別)
発売中

[詳しくはこちら]
[単行本の情報]
[作品の情報]

「イブニング電子版」PC・スマホ・タブレットでいつでも読める!毎月第2・第4火曜日配信

アクセスランキング

  • 第1位

    イブニング

    ふたりソロキャンプ

    出端祐大

    Webで読む

  • 第2位

    イブニング

    女の子のためのストリップ劇場入門

    菜央こりん

    Webで読む

  • 第3位

    イブニング

    RaW HERO(ロウヒーロー)

    平本アキラ

    Webで読む

  • 第4位

    イブニング

    妻に恋する66の方法

    福満しげゆき

    Webで読む

  • 第5位

    イブニング

    今/渦子 往く琥珀色のはて

    松浦だるま

    Webで読む

こちらもオススメ!

モーニング公式サイトへ