【第36回イブニング新人賞特別審査員長】『行け!稲中卓球部』『シガテラ』『ゲレクシス』古谷実先生スペシャルインタビューをお届けします!

2017/05/25 16:00

インタビュー・対談] [新人賞

現在募集中の「第36回イブニング新人賞」関連記事)で特別審査員長を務めるのは、『ゲレクシス』の連載を終えたばかりの古谷実先生。

次回作構想中のところをお邪魔してインタビューを敢行し、漫画家「古谷実」の誕生や創作論、新人へのアドバイスなどについて、語っていただきました。



『ゲレクシス』古谷実氏スペシャルインタビュー

(「イブニング」2017年11&12号に掲載)


賞に応募するまでは、プロの漫画家になるなんて思っていなかった

——漫画は小さい頃から描かれていたんですか?

古谷実(以下、古谷)
小さい頃、漫画はあまり読んでいないほうだったんです。でも、クラス内でまわす手紙みたいな感じで漫画のようなものを描いてはいましたね。でも、その漫画は、プロになろうというものとは全然違うものでした。

——漫画家になろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

古谷
私は美容室で働いていたんですが、そこは今でいうブラック企業的な感じで、死ぬほどキツかったんです。弁当とか買い出しに行かされるんですが、それも辛くって。とにかく美容室を辞めたくて、何ができるかを考えた結果、漫画を描こうと。人よりも若干絵が描けた、その程度なんですが……。で、買い出しを頼まれるたびに近くにあった伊東屋さんという文房具店をウロウロしてました(笑)。そこで「これがトーンか」ってトーンの存在を知ったりとかして。それまでトーンなんて知らなかったんです。
それで「週刊ヤングマガジン」の月間賞に投稿をしました。いわゆるコマを割って描く、ちゃんとした漫画というのを描いたのも初めてで、「プロを目指す」というよりもバイトくらいのつもりでしたね(笑)。どうせ続かないからと思っていたし、「漫画で一生食っていくぞ」みたいな気持ちもなくて、何も考えてなかったですね。不真面目な話ですみません。


『行け!稲中卓球部』が生まれるまで

——「ヤングマガジン」に投稿しようと思った理由というのは?

古谷
好きな作家さんが大勢いたからですね。それと、ここなら通るかもしれないなと思ったんです。ユルそうに見えたんですよね(笑)。最初に投稿した作品はギャグ漫画だったんですが、箸にも棒にもかからないような作品でしたから、当然落選しました。
「イブニング」の新人賞は全部講評が返ってきますけれど、当時の「ヤンマガ」の月間賞はそういうのがなくて、どう直したらいいかとかもわからなくって……。反省点とかどこが悪かったとか、もうなんにもわからないんですよ。とにかく「次を描く」という気持ちでしたね。通るまで描き続ける、みたいな。25歳までやってダメならやめるつもりでした。
結果、2作目が月間賞で入賞して担当がつきました。それが『行け!稲中卓球部』(※1)だったんです。その後、担当に「『稲中』のネーム(※2)を3話描いてきて」と言われて、それが誌面に載ったそのまんまでしたね。本当に運が良かったんですよ。雑誌に急に空きが出来て「お前行け」となって、そのまま連載に繋がったという感じでした。
※1 『行け!稲中卓球部』/累計発行部数2500万部以上の伝説級ギャグ漫画。全⑬巻。読者だけでなく多くの漫画家にも影響を与えるなど、社会現象となった作品。
※2 ネーム/コマ割りやコマの構図、セリフ、キャラの配置などを大まかに表す、漫画の設計図。

『行け!稲中卓球部』伝説の第1話より。このサーブ、真似をしたことがある人も多いのでは?

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プロになって変わった意識

——受賞作が初連載作品になるとすごく苦労をすると聞きます。それが週刊連載でとなると、相当な苦労をされたんじゃないでしょうか。

古谷
それが、そんなこともなくて。最初の頃は、もうどうだって良いと思っていたんですよ。「どうなろうが知ったことか。なるようになる」そういう心持ちでした。特に最初の頃はとにかく「描け描け」と言われていて休みもあんまり取れませんでしたし、アシスタントさんも1人ぐらいしかいなかったですしね。中盤から3人くらいになりましたが。

——連載の前と後で、古谷さんの中で変化したことはありましたか?

古谷
これを言うとお仕舞いですけど、本当に1作目の時は無知だったんです。気持ちもいい加減だし。連載が始まってからしばらくは、なんとなくでやっていたんですが、だんだん読者のことを意識するようになっていきましたね。エロいことをやると明らかにアンケートの順位が上がったり(笑)。雑誌に合わせてのサービスではないですが、読者も見つつ、編集長も見つつ、どう読まれるのかを意識するようになっていったと思います。
今は読者の目も厳しくなって、冒頭の4ページくらいで読者の心をガッチリ掴めないと読んでもらえません。作者のタイプにもよると思うんですが、「あの人に読んでほしい」とか、仮想読者を1人でも作った方がいいんじゃないかと思います。その意識の有る無しで作品のスケール感が変わってくるし、私はそのほうが作りやすいですね。漫画は誰かに読んでもらうことが大事なので、どんどん送って来て貰えると嬉しいです。


出来ることから作品の内容を決める

——投稿1作目からギャグ漫画だったそうですが、ギャグを選んだ理由は何だったんでしょうか?

古谷
私の場合は絵に劣等感があって……。コンプレックスなんです。絵が下手だとやれることが限られてしまうので。当時の自分の絵のレベルではギャグしか描けないだろうと思っていたんですよ。他のプロの先生方の画力を人間だとしたら、自分は類人猿くらいでしたから。「早く人間の姿にならないと。ちゃんと絵を描けないとダメなんだ」と思っていました。絵が上達するにつれて、自分に掛けられていた規制が少しずつ外れて行ったような感覚がありましたね。
何でも描ける若い人は、きっと苦労するんじゃないでしょうか。いろんな絵が描き分けられると、どの絵を使えばいいのか、どういう話を描くのか、選ぶのが大変ですから。

絵の訓練は一生続く修行みたいなもの


——今の古谷さんからは想像もつかないお話ですが、どのような絵の訓練をされたんでしょうか?

古谷
模写ですね。写真を見て描いたりしています。トレースもしますし、何かを見て描いたりもしますし。喫茶店みたいなところで、人の耳の裏とかを観察して描いてみたりとか。
原稿でもそうですが、いい絵が描ける瞬間があって、一瞬、自分が天才なんじゃないか?と思うんです。でも、後から見ると違うんですよ。描いている時に「よし!」って感じても、掲載されているのを見ると「普通」みたいな感じで。描いた直後の感覚って、ズレるんですよね。ちょっといいなって思ったのが普通で、ダメなのはもう全然ダメになっちゃう。だから今でも努力しています。
……『漫勉』(※3)とかを見ていると、自分よりも年上のベテランの先生たちが絵を直しながら原稿を描いていたりするので、傷つきますよ。「続くんだ……この修行……」って(笑)。
※3 『漫勉』/漫画家・浦沢直樹がプレゼンターを務め、日本の漫画家の執筆現場に密着取材するドキュメント番組。正式なタイトルは『浦沢直樹の漫勉』。

最初に作るのは「キャラ」と「関係性」

——古谷さんが作品を作る上でこだわっていらっしゃることは何でしょうか?

古谷
そうですね。私はキャラで魅せろ、みたいな考え方が好きなんです。映画を見るのも、とにかくキャラが中心です。なので、自分の漫画でもまずはキャラを作り込んでいきますね。親しみを持ってもらえるキャラさえ出来れば、だいたい上手く行きますよね。隙があったり、等身大だったり、愛されるような感じだったり。私は、古い友人や映画や小説のキャラクターをモデルにしたりすることが多いです。

——では、『ゲレクシス』(※4)の場合も最初にキャラクターを作ってから?

古谷
そうでしたね。主人公を決めて、それから関係性を決めて周りのキャラクターを考えます。それから、群像劇だったらプレーンな人、いわゆるリアクションを取るタイプの人間を1人は入れます。引いた目線を持っている人を読者に見せられると面白くなると思うんですよね。
実は『ゲレクシス』にはリアクションを取るキャラクターがいませんでした。倉内というキャラクターがそうだったんですが、作品の展開で使えなかったんです。挑戦でしたね。挑戦といえば、お子さんも読めるようにしたかったので、『ゲレクシス』では下ネタを初めて使わなかったんです。誰も気付いてくれませんでしたけど(笑)。
※4 『ゲレクシス』/古谷実の最新作。そこはかとなくSFで、ほのかにミステリー。全②で味わえる、全人類未体験のエンターテインメント作品。

『ゲレクシス』第1話より。たゆまぬ努力によって培われた画力が、読者を作中世界に引き込む。

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漫画家ほど面白い職業は他にない

——「イブニング新人賞」の審査員を務めていただくのは2回目になりますが、前回の選考は印象に残っていますか?

古谷
よく覚えていますよ。これは大変な仕事だな、と思いましたね。やっぱり新人賞で高評価を取るような子ってある程度安定しているし、雑誌に載るのって、全体的に安定感があるなような作品じゃないですか。未知数な子はやっぱりちょっと怖いですよね。でも、相当いいところが1つ、2つでもあると強く推せるんです。

——最後に、応募作品に期待することや、投稿される新人の方に一言お願いします。

古谷
絵の効果とか、手法で驚かすみたいなことも大事なんですけど、まずは中身だと思います。キャラとストーリーの部分で評価をしたいですね。キャラが親しみを持たれて読者から愛されたら、何でもうまくいきます。絵は後から伸びてきますから、得意なことをやってもらいたいです。
漫画家ほど面白い職業は他にないと思いますよ!



古谷実先生ありがとうございました!
たくさんのご応募をお待ちしております!




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    発売日:2016/09/23
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