【バーサス魚紳さん!】『釣りキチ三平』の矢口高雄先生スペシャルインタビュー!【4.24連載開始!】

2018/04/10 00:00

インタビュー・対談] [新連載

釣り漫画のレジェンド作品『釣りキチ三平』のスピンオフとして、なんとあの魚紳さんが主人公という『バーサス魚紳さん!』がいよいよ4月24日(火)からの新連載開始!(関連記事

早くも各SNSなどで話題となっていますが、この新連載直前企画として、原作者の矢口高雄先生スペシャルインタビューをお届けします!


『バーサス魚紳さん!』新連載記念
原作者・矢口高雄氏直撃ロングインタビュー

(「イブニング」2018年9号に掲載)


鮎川魚紳の二つの謎

魚紳さんのモデルとは?

——原作・矢口先生と漫画・立沢さんに、『バーサス魚紳さん!』の誕生秘話などお聞かせ願えればと思います。前号でこのような告知が掲載されました。

矢口高雄(以下、矢口)
うーん、かっこいいねぇ(ニコリ)。
立沢克美(以下、立沢)※『バーサス魚紳さん!』漫画担当
ありがとうございます! 御見せするのはずっと胃が痛かったんですが(笑)。ああ、スゲー嬉しいです!

矢口
ちゃんと現代風の魚紳になってるね。こないだ見せてもらったのも良かったけど。

——魚紳さんのモデルがいるというのは、ファンの間では有名ですが?

矢口
そうそう、「魚紳」にはモデルがいるんだよ。昔のことだけどね。

立沢
是非、聞かせてください。先生に直接伺えると糧になります。

矢口
フフフ……(微笑み)。ボクがマンガを始める前、秋田で銀行マンをしていた頃の話でね。ボクはその頃から釣りが大好きだった。川や湖にはよく行ってたし、見かけた釣り人などに声をかけたりしてたんだよね。

漫画家・矢口高雄はかなり異色の経歴を持っている。秋田に生まれた矢口は、高校卒業後、現在の羽後銀行に12年間勤務し、30歳のときに一念発起して漫画家を目指した。これは漫画家前夜の銀行員時代の話である。

矢口
昭和40年の夏だったかなぁ。その時ボクは支店への転勤があって、電車で通ってたんだよね。仕事を終え、帰宅途中の電車の中でドカドカッと電車に入ってきた中年男性がいた。その人は身長が高くて、大型のへらの竿ケースを肩にかけ、ベストを見事に着こなしていてね。ボクは声をかけたんだよ。そうしたら、すっと名刺を出す。そこに「北関東ヘラ研究会 加藤魚紳」と書いてあった。へら(※ヘラブナ)の月刊誌に寄稿する時のペンネームだという。その加藤魚紳氏は、「貝沼に青ブナなるものが釣れるという噂を聞いた。それを確かめたい」という。その貝沼っていうのはウチの近くでね。休みをとれば一緒に行けるんだけど、勤め人なんでそうもいかない。とりあえずボクは湯沢市の釣友会にいたんで、そのメンバーに紹介した。したら俺達がクルマで案内するわ、ということになった。後日、見事な巨ベラを釣り上げたと丁寧な報告を受けましたよ。その釣りの腕といい、紳士的な物腰といい非常に痛快な釣りキチだったね(笑)。

その後、矢口は銀行支店転勤を繰り返すが、いよいよ意を決して昭和45年に銀行を退職、上京。漫画家を目指し、小学館から『鮎』でデビューし、昭和48年に講談社「週刊少年マガジン」にて『釣りキチ三平』の連載を開始する。

立沢
その間、魚紳さんのイメージは消えなかったんですか?

矢口
銀行を退職する4年も5年も前の話なんで、漫画家になろうなんて夢にも思っていなかったんだよ。でも「魚紳」っていう名前のカッコよさは印象が強かった。その時のことが『三平』を描き始めた時に思い出された。それが、第2話にあたる「カルデラの青ブナ」という話になるんだよね。その中には魚紳は登場しないんだけど、ボクのイメージからは消えなかったんだね。そして、第3話にあたる「三日月湖の野鯉」を構想している時に、「そうだ、あの魚紳を出してやろう」と思いついたんだよね。ボクの感じた彼のイメージは「日本一周の釣り行脚をしてそうだな」だったから。そこから、キャラクターを作っていく訳だけども、加藤魚紳さんは髪型もキチッとしてて紳士だった。会社の社長さんだったから。だから、真逆にしてやろうと思ってね(笑)。いかにもやさぐれて髪は長髪でぼさぼさで、サングラスをいつもかけている、「風来坊釣り師」ということにしたんだよ(笑)。

立沢
あのヤサグレ感も好きです(笑)。

矢口
ハハハ。頬には傷はあるわ、ダルマは一気飲みするわ、タバコはバッカバッカ吸うわでね(笑)。どうみてもまともじゃない(笑)。いいイメージじゃないと思うんだけど、これがマガジンに出たら女子中高校生からファンレターがバカスカきてね。「魚紳がかっこいい」って(笑)。そういう話で驚いてね。じゃあまたいつか、魚紳を出してやろうと思ったんだ。

「三日月湖の野鯉」では、三平が見事、野鯉を釣り上げて魚紳との勝負に勝利し、魚紳は「これで失礼します。三平くんによろしく」と言って去る。その時、三平は激闘の疲れからか、コンコンと眠り続けている……というラストシーンになる。次の登場は巨大な滝太郎という魚と対決する「O池の滝太郎」というシリーズである。1975年当時、まだ珍しかった「ルアー」が紹介されており、『釣りキチ三平』で新しい釣りを知った読者も多かった。

矢口
そして、次に出したのが「O池の滝太郎」。だけど、あんまり女子中高校生のファンレターが多いもんだから、いつのまにやら顔は小顔になる、身長は高くなる、足は長くなる、でね(笑)。

一同
ハハハ(笑)。

矢口
彼の持つ釣りバックに「魚紳」っていうネームプレートがあるから、三平クンは「魚紳さんって言うんだべ」ってことになるんだけど、苗字がなかったの。

立沢
「O池」でも決まってなかったんですか?

矢口
ないです。決めてなかった。そうしたら、ある名付け親が現れるんだ。その頃、とある横浜の高校生姉妹が、いつしかボクのアトリエに遊びに来るようになってた。魚紳のファンだってことでね。2人でやって来ては、お茶を飲んだりスタッフと話をしたりしてたんだけど、ある日「私たちが魚紳さんの苗字を考えてきました」って言う。「鮎川」だ、と(笑)。ボクは「そうか魚紳は苗字がなかったんだなぁ」と思ってね。彼女等の提案をよくよく見てみるとボクの好きな「鮎」の字も入ってるし、音もいい。ということで、その2人の「鮎川」の案を採択して「鮎川魚紳」が生まれたんだよ(笑)。

立沢
なるほど~~~!

矢口
立沢くんもわかると思うけど、物語を作る時ってそんなにカチッと決めてないことが多いんだよね。出たとこ勝負でいろんなアイデアを付け足していって、結果的にこうなったというキャラクターが多い訳だよね。

立沢
たしかに、あんまりカチッと決め過ぎない方がいいかもしれませんね。

矢口
それが重なってくると「磯の王者」だったかな、魚紳が少年時代にオヤジに釣りに連れて行かれて片目を失うというエピソードが生まれるわけだけども、それも後付けでね(笑)。

魚紳登場1話目「三日月湖の野鯉」のラストで「三平くんに海をやらせてみたい」と語っているように、初めての海釣りに三平を連れて来た魚紳。石鯛を狙うシリーズである「磯の王者」は“魚紳史”の中ではエポックな話となる。ここでは、幼い頃の魚紳が、父親が投げたタックルの針が目に刺さり、片目を失ったという秘話が披露されているのだ。実は魚紳はその顔を見せないように家を出た。このシリーズでは数年ぶりに両親と再会するシーンが感動的に描かれている。

矢口
さっきの女子高生姉妹に関しては、オチがついてて、後にお姉さんの方は当時のボクのチーフアシスタントと結婚するんだよ。

一同
ええええ~~~~!


魚紳さんの真のモデル発見!


矢口
だから「鮎川魚紳」というのは、下の名前は先ほど話した加藤魚紳さん、苗字は女子高生姉妹が名付け親だよ。だけど人格の部分は、キャラクターは1人の著者から出てきている訳で……。やはり作品に出てくるキャラのモデルは「自分」なんだよね……。魚紳にしても、一平じいさんにしても、全部が「自分」なんだよ。自分にないものだとか、こういうことが理想だとか、作家は誰でもそうだろうけどね。

立沢
では、魚紳さんのモデルは矢口先生なんですね。

矢口
そういうことになるかなぁ。こういうキャラクターを生み出していくには2通りあって、どれをとってみても「自分のコンプレックスの裏返し」って言った方がいいかもしれないね……。

——先生のコンプレックスですか?

矢口
身長にコンプレックスがある人間はやはり身長が高いキャラクターを出したがるんだね。例を挙げると、若い頃の「さいとうたかを」は、とてもじゃないけど『ゴルゴ13』を描くような風体してないからね(笑)。160センチぐらいで体重100キロぐらいだから。腹は出てるしね(笑)。

一同
ハハハ。

矢口
そういえば「イトウの原野」を描いている時、面白いことがあったなぁ。

立沢
谷地ボウズが出る回ですよね。三平といえば「イトウ」のイメージもあるんで、大好きです。

矢口
フフフ…そうそう。このシリーズには織田竿酔さんっていうキャラがいてね。実物はこの魚拓をとった人だけど(と飾ってある魚拓を指差す)。(作中では)その竿酔さんに「よし子」っていう娘がいるわけだ。でね、このよし子が魚紳に惚れちゃってね。付きまとってうるさいわけ(笑)。

立沢
うるさい、っていいですね(笑)。

矢口
それで、よし子が魚紳に、やれ疲れてないかだの、こっち来てだの、チョコレート食べろだの、世話焼きをするわけだ。うるさくなった魚紳が「俺は甘いものが苦手なんだよ」と追い払おうとするわけ。そうしたらね、バレンタインデーの時に、編集部に山のように届いていた魚紳宛のチョコがピタッと止まったんだよね(笑)。

一同
ハハハ(笑)。

「イトウの原野」は、『釣りキチ三平』の中ではエポックとなるシリーズだ。北海道の根釧平野にてイトウにアタックする話は、実際に矢口が取材した体験がベースになっている。そこでは三平の父親のドラマに触れられているが、そこでも魚紳は重要な役回りを務めている。

立沢
とにかく魚紳さんはモテますよね! まあ、モテますけどあのタイプは。日本はもちろん、カナダでもハワイでも。

矢口
まあ、そういうところもボクのコンプレックスから来るかもしれないけどね(笑)。モテたことないから(笑)。

一同
いやいや(爆笑)。

立沢
あの魚紳さんの、くっと帽子を下げて照れる感じもいいですよね。

矢口
雄弁ではないけどね。魚紳は照れ屋だから(笑)。でも、そうやってどんどんキャラクターが完成されていくわけだから、最初の「三日月湖の野鯉」のときの、ウイスキーラッパ飲みしてたのもなくなるし、くわえタバコでリールを巻いてたのもなくなるんだよね(笑)。タバコに関しては社会の趨勢もあるから、気をつけなければならなくなったということもあるだろうけども。

立沢
でも、魚紳さん、お酒は呑みますよね。

矢口
そうそう、酒は好きだね。

——一度、「平成版」で魚紳さんの自宅の部屋が描かれた時、もう矢口先生のお宅そのまんまですもんね。伺ってからわかりました。魚拓があって、大きなスピーカーがあって……。

矢口
もう忘れちゃったよ……。

一同
ハハハ(笑)。

立沢
「魚紳さんは矢口先生だ」と思うと描いてて楽しくなりそうです(笑)。


『バーサス魚紳さん!』に託すもの


——矢口先生のメッセージ、「想い」がつまった「魚紳」というキャラクターが今回再生復活することについて、考えを御聞かせください。

矢口
そうだねぇ。田舎の銀行員を経て30歳にして漫画家を目指したということで、他の漫画家さんとは違う経験をしているということはあるかもしれない。魚紳の顔の傷も、ボクのある経験から来ているしね。鮎のコロガシ釣りというのがあるんだけど、びゅんと竿を振ったときに、針が大きく振れて顔のところを切ってしまうという話があった。でも時代によって、描くことはいろいろ変わっていくと思う。でも、変わらないものもあるよね。

立沢
はい。

矢口
銀行員をやってて一番ためになったのは「人間の幸せってなんだろうか?」ということを考えるようになったことだね。銀行って言うのは、命の次に大事な「銭」を人様から預かって仲介しながら成り立ってるわけでね。身内の醜いトラブルが銀行内に持ち込まれて、どうのこうのというエピソードをたくさん見聞きしたわけ。その時に、こういうトラブルは人間の幸せなんだろうか、ということに対時させられるわけだ。

立沢
お金ではない、という?

矢口
お金はあると非常に便利なものだよね。ないために苦労する人生もある。ほどほどに使い勝手が良いくらいあるといいけど、脱税しなければならないほどあると、それはどうなんだろうと思ったね……。そういうことを突き詰めて考えていくと、「足るを知る」ということなんじゃないかと思い至ったかな……。人生の満足をするには「足るを知る」ことが大事なんじゃないかな。

——エリートである銀行員の職を捨てて、マンガの道を志したのはお金に関する幸福を考え続けたらからなんでしょうか?

矢口
そりゃあもちろん、大ヒット飛ばしてお金が入ってくればそれなりのことだけども、「やりたいことをやる」ということの方がボクには美しく見えたからね……。

立沢
「やりたいことをやる」というのは、まさに魚紳さんそのものですね。

——「祈願日本一周釣行脚」というのも、矢口先生の願望だったんでしょうか?

矢口
うーん、そうなるかなぁ(笑)。土曜日は半日勤務だけども、銀行が閉まってからバイクに乗ってパーッと釣り場に一目散に走っていたからね(笑)。

一同
ハハハ(笑)。

——最後にメッセージをお願いします。

矢口
ボクは無我夢中で魚紳というキャラクターを描いてきたわけだけども。新しい時代の魚紳が、立沢くんという作家の手によって復活することで、ワクワクしています。ボクが気づかなかった魚紳というものも生まれてくるんだろうしね。だから、自分の作品だと思って、ボクのことは気にせず好きにやってください(ニコリ)。

立沢
全力でやります!!

——ありがとうございました! 次号よりいよいよ開始! 乞うご期待!

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